財団法人 東方研究会

リレーエッセイ 『東洋の思想と文化』 第9回  西岡 祖秀(東方学院 関西教室講師)

 本年2012(平成24)は辰年である。辰といえば、昨年11月に辰()の国・ブータンから結婚したばかりの若き国王夫妻が国賓として来日された。国会演説や、東日本大震災の被災地での心温まる言動と笑顔が日本中に感動を与えたことは記憶に新しい。ブータンはチベット仏教の四大宗派の一つであるカギュ派の支派・ドゥク派を国教とする仏教国である。ブータンの人々は自国を「ドゥク・ユル(龍の国)」と呼ぶが、これも宗派名に由来する。

 このブータンが世界的に注目を集めることになったのは、第四代前国王のジグメ・センゲ・ワンチュクが1972年の即位演説で述べられた「国民総幸福(GNH, Gross National Happiness)」の理念である。それは国家の発展を測る尺度を、「国民総生産(GNP, Gross National Product)」ではなく「国民総幸福」とすることを宣言したものであった。物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを重んじたのである。戦後の日本が復興を目指して経済発展に邁進していた時代である。第五代現国王のジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュクもこの方針を継承し、2008年に制定した新憲法に、「国民総幸福」の向上を図るための「四つの柱」として、良好な統治、公平な経済社会の発展、自然環境の保護、伝統文化の保護を明記したことは画期的なことである。このように国民の幸福を国の主要目標とする背景には、人間の真の幸福を求める仏教の教えがあることはいうまでもない。カギュ派の二祖ともされるミラレーパ(10401123/10521135)はチベットにおいて最も尊崇されている宗教詩人であるが、その詩集『十万歌謡』(210)には「世間の八法(富貴・貧乏、名声・悪名、賞賛・誹謗、幸福・不幸)を誤りと識っているから、わたしは幸せ。すなわち恬淡の境地にあって、わたしは幸せ。心が心を見守っているから、わたしは幸せ。すなわち望みや恐れがなく、わたしは幸せ」と謳う。心の平安こそが何よりも大切であることを説いている。

 日本における自殺者の数は、1998年以降毎年三万人を超えているといわれる。「物で栄えて心で滅ぶ」危機的状況にある私たちは、「少欲知足」の仏教の心を優先するブータンの生き方に学ばなくてはならないであろう。


『祖師親鸞讃歎』、『大乗仏教の実践』、『南北朝・隋代の中国仏教思想研究』

『祖師親鸞讃嘆―報恩講式と嘆徳文』
常盤井 慈裕 著
山喜房仏書林、2012年3月刊
2,800円+税、256頁

 本書は、浄土真宗高田派において特に重視されてきた『報恩講式』と『嘆徳文』の懇切な解説・現代語訳と、史料的価値をめぐる論考より成る著作です。『報恩講式』と『嘆徳文』は、本願寺第三世覚如上人とその長子存覚上人が、それぞれ祖師親鸞上人の恩徳を讚嘆するために作られたものであり、これらの著作の意図を丁寧に読みとく本書は、浄土真宗および親鸞の思想に関心のある人々にとって大変有意義なものとなっています。また、存覚の『正明伝』に注目した一章では、親鸞の歴史的実像にあらたな光を与える考察が行われており、親鸞研究においても重要な価値を持つ一書です。本書の筆者、常磐井研究員は、本年度、東方学院で親鸞伝に関する講義を開講しておられます。

『大乗仏教の実践(シリーズ大乗仏教第三巻)』
高崎 直道 (監修), 末木 文美士 (編集)
春秋社、2011年12月刊
2,940円(税込)、266頁

本書は、戒律や禅定などの大乗仏教の実践思想が、実際の歴史的な場においてどのように信仰され、実践されてきたかという観点から、大乗仏教の実践思想としての本質に迫るものであり、大変充実した内容になっています。部派仏教と大乗仏教との連続面をクローズアップするという最新の研究成果が反映されており、大乗仏教の成立と展開に興味をもつ人々にとって、必読の書となっています。東方連携研究員の末木文美士氏が総論を、東方学院講師の勝本華蓮先生が菩薩信仰について執筆しています。
〈目次〉
第1章 大乗仏教の実践(末木文美士)
第2章 戒律と教団(李慈郎)
第3章 信仰と儀式(袴谷憲昭)
第4章 大乗仏教の禅定実践(山部能宣)
第5章 仏塔から仏像へ(島田明)
第6章 菩薩と菩薩信仰(勝本華蓮)
第7章 大乗戒—インドから中国へ(船山徹)
第8章 中国禅思想の展開—「平常無事」と「悟」(土屋太祐)

『南北朝・隋代の中国仏教思想研究』
菅野博史著
大蔵出版、2012年2月刊
17,850円(税込)、616頁

 本書は、中国仏教の初期から隋の三大法師(地論宗の浄影寺慧遠、天台宗の智顗、三論宗の嘉祥大師吉蔵)までの「法華経」・「維摩経」・「涅槃経」の注釈に関する論考を中心とする27編をまとめたものです。著者の菅野博史氏(東方研究会連携研究員)は、天台智顗を中心とする法華経注釈書の研究を多数ものされていますが、本書は、南北朝~隋代の中国仏教の動向を緻密な研究で押さえることによって、智顗の位置づけを浮き彫りにする、大変重要な著作といえます。中国仏教に興味のある方、天台宗や、大乗経典の註釈に興味のある研究者諸氏にも読み応えのある研究書となっています。
〈目次〉
序 論
第一部 法華経疏の研究
第二部 維摩経疏の研究
第三部 涅槃経疏の研究
第四部 『大乗四論玄義記』の研究
第五部 その他

「妻と東方学院」 矢崎長潤(東方学院研究会員:関西教室)

 仕事が休みの土日には、次の講義のために予習と復習をする。左手に梵英辞典をひらき、右手に講義録と文法書、そして中村元先生訳の『般若心経・金剛般若経』(岩波文庫)を置き、サンスクリット語で書かれた『金剛般若経』を解読していく。
 まず、本文を声にして読み上げる。そして、サンディ(連声)に注意を払いつつ、文法書と睨めっこしながら、読み進むのである。悪戦苦闘しながら、一文を読み上げるとなんともいえない充実感と爽快感とで満たされる。
ふと、一息つき台所に目を向けると、妻が怪訝そうな目でこちらを見ている。新婚ではあるが、デーヴァナーガリー文字で書かれた怪しげなテキストに熱中する夫に、焼きもちを焼いているという感じではない。傍から見ると、なんだか奇怪なことをしている、とそのように思えるらしい。
 わたしのようにインド仏教や哲学を学ぶ一般人で、このような不遇な扱いを受けている人は少なくないはずだ。家族からの冷たい目に耐え、肩身の狭い思いをしている人にも「東方学院」はお薦めである。
 わたしの通う関西教室には年に二回、インドの文化に興味をもつ人のために、「中村元インド哲学カフェ」が開催されている。世界的名著『バガヴァッドギーター』や世間で広く注目を集める「ヨーガの思想」など、グッと敷居を下げて、インドの思想の魅力に触れることのできる素晴らしい機会が用意されているのだ。
 「あなた以外にも、こういうことに興味がある人がいるのね」と一応の理解を示した彼女も、日本で信仰を集める神さまがインド出身だったり、「ホット・ヨーガ」や「ピラティス」などといったエクササイズとして広く知られる「ヨーガ」も、もともとは今とはまったく違うバックグラウンドで繰り広げられていたことに感動をしたようだった。
 東方学院に通って一年半。休みの日には、気分次第でいれてくれる妻のチャイ(インドのスパイス入りミルクティー)を飲みながら、左脇に息子を抱いて、月称(チャンドラキールティ)の著作とされる『プラサンナパダー』(龍樹の『中論偈』の註釈書)をサンスクリット語テキストから解読している。「東方学院」の理念は、「真に教えたい一人と真に学びたい一人が集まれば、学院は成り立つ」とお聞きしたが、日本でも屈指の学者の方に直接指導を賜り、その学問の成果の真髄を味わえるのである。このような有意義な時間を過ごすことができることに、ただただ感謝するのみである。

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@amano_yukio おっしゃるとおりです。9日が正しいのです。大変失礼いたしました。4月9日月曜日にお越し下さいませ。
約50日前
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続いては、桂紹隆氏(龍谷大学教授、第20回中村元東方学術賞受賞)による「中村元先生と論理学」のご講演でした。
約73日前
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佐々木一憲氏(当研究会研究員)がアジア諸国派遣留学の成果発表の一環として「碧い眼で見出した仏教」を、講演しました。
約73日前
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2月28日の新春会が、報告されました。http://t.co/9USwN27c
約73日前
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当サイト「東方学院」の開講講座一覧が更新されております。手引きの前に、ぜひご覧下さい。http://t.co/iNpuKP5U
約80日前
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2012年度 東方学院の受講の手引きは、東方学院にご興味・ご関心のある方どなた様にもお届けしておりますので、お気軽に事務局までお問い合わせ下さい。送料等、一切無料にて配布しております。
約80日前
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東方学院研究会員(関西教室)の矢崎長潤さんのエッセイ「妻と東方学院」絶賛公開中。哲学カフェにご参加いただいた奥様から「あなた以外にも、こういうことに興味がある人がいるのね」とのこと! http://t.co/a5V8S4Mq  
約80日前
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東方だより第19号をアップしました。中村元博士生誕1 0 0 年記念事業をご紹介しております。http://t.co/yHTY5nbh
約80日前
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2012年度4月からの東方学院のお申込を受付中です! 
約80日前
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神田明神の鳥居のすぐ脇にある明神茶屋さんです。店内、レトロな雰囲気で落ち着きます。 http://t.co/ibtbSv8p
約88日前
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ご近所の三井製パンさん。喫茶もあり。 http://t.co/JPeHur4b
約98日前
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明神様! http://t.co/SUFgLEnN
約108日前
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あまり知られていませんが、この神田、湯島界隈は近代学問発祥の地でもあります。 http://t.co/nabsgXY0
約108日前
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東方学院の東京校は神田明神の鳥居のすぐ脇にあります! http://t.co/WXU8G4Cs
約108日前
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飛び込みのご参加、大歓迎です! お待ちしております。 場所:真宗大谷派茨木別院(大阪府茨木市別院町3-31 阪急京都線茨木市駅下車すぐ 時間:18:30-20:00(1講義90分)
約109日前
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明日は、体験講座インド文化入門の第2講が開かれます。 第二講:インド哲学思想 (2012年2月2日木曜18:30-20:00)  担当:茨田通俊・佐藤宏宗
約109日前
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「受講の手引き」のお申し込みやお問い合わせは、財団法人東方研究会 東京本校事務局 郵便: 〒101-0021 東京都千代田区外神田2-17-2 電話:03(3251)4081 Fax:03(3251)4082 e-mail:info@toho.or.jp
約109日前
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。新年度講義の受講申し込みの受付も開始いたします。講義開始後でも申し込みは受け付けておりますが、例年、開講前に定員に達してしまう講義もございますので、お早めのお手続きをおすすめいたします。本年もたくさんの方のご受講をお待ちしております。
約109日前
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大変お待たせいたしました。講座案内などをまとめた「受講の手引き」2012年度版ができあがりました。受講をご検討中の方はもちろんのこと、東方学院にご興味・ご関心のある方どなた様にもお届けしておりますので、お気軽に事務局までお問い合わせ下さい。送料等、一切無料にて配布中しております。
約109日前
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中村元インド哲学カフェ第6回は、ヨーガの世界をご紹介いたします。インドにご興味をお持ちの方、東方学院の雰囲気をのぞいてみたい方、どなたでも参加できるカフェで、皆さまのお越しをお待ちしています。
約130日前
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【プログラム】 Cafe1:インドの古典にみられるヨーガ Cafe2:インドにおけるヨーガ研究の取り組み~カイヴァリヤダーマ研究所の近代ヨーガ教育の一例~ フリートーク&レクチャー: 『神の歌』に秘められるヨーガ~古典と現代の我々とをつなぐ魅惑の世界~
約130日前
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約130日前
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【日時】2012年1月14日(土曜日)午後2時~4時 【会場】大谷大学 1110教室(1号館1階)地下鉄烏丸線 国際会館行「北大路駅」上 JR京都駅から約13分 【参加お茶代】1000円(先着50名まで入場可)
約130日前
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1月14日(土曜日)に、京都の大谷大学で「中村元インド哲学カフェ 第6回 ヨーガの世界~古典から現代へ~」がひらかれます。
約130日前
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リレーエッセイ『東洋の思想と文化』を更新しました。関西教室の沖本克己先生の「重箱と風船」です。新年を飾る堂々たるエッセイ、ぜひご覧下さい。http://t.co/gvgs0WJC
約130日前